ジェネラル・ルージュの伝説

速水の若き日の物語と、海堂ワールドの解説と、桜宮を中心に広がる作品世界の人間関係の解説本。

この著者ってすごいなぁと思う。
自分が実現したい夢(?)をかなえる戦略の1つとして、ミステリ小説を用いるとは。
ミステリ作家になるのが夢の人もいるのに、この人にとってはAiの認知を広めるための戦略の1つ。
今のところ成功している。
Aiは医学的に導入が難しい技術ではなく(診断できるかどうかは知らんが、少なくとも新しい分野の診断装置が必要なわけではない)、特殊な病気の治療法でもなく、誰もが必ず1度は経験する「死」そのものを取り扱う分野なので、一般的に認知されることは、分野を確立する上で極めて重要だ。

速水の若き頃のエピソードは、ミステリではなく、英雄伝説なので、まさに「伝説」。
花房の若き頃を読むと、女はここまで変わるのか、という気になる。

ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて

ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて

スリーピングドール(ジェフリー・ディーヴァー)

最後のたたみかけるように二転三転する展開がすごい。
エンタメ作品はこうでないと、というサービスの行き届いた作品。

動作や表情などに出てくるストレスを嗅ぎ取って、相手の心理を読み取るキネシクス(千里眼シリーズとちょっと似ている)の天才である捜査官キャサリン・ダンス。
人の心理を操るカルト指導者ダニエル・ペルの脱獄事件に関わってしまった彼女は、ペル捜索の指揮を執ることになった。
次々と通りすがりの一般市民の弱みを握って、見事に逃げ続けるペルと、ペルが驚くほどに彼の行動を読んで、引き離されないダンスの心理戦。
さらに、ダンスと彼女の思春期の息子との関わりや、同僚のTJやオニールとの友情、FBIから派遣されてきたカルトのエキスパート・ケロッグと微妙な関係など、周囲の人間とも心理のせめぎ合いが描かれる。
過去にダニエルのカルトに属し、今は人生をやり直そうとしている女性三人の会話も面白い。
友情、思い出、嫉妬とぐちゃぐちゃの思いが入り乱れて、緊張感がある。

ストーリー展開も文章(翻訳も素晴らしいと思う)も会話も登場人物のキャラクターも、魅力的で、読みだしたら止まらなかった。

映画化されたボーン・コレクターの姉妹シリーズ。ボーンコレクターの主役も電話で登場する。
私でも成分を見れば予測可能な物質名を答えるだけのサービスカットだが。

メモリー・キーパーの娘(キム・エドワース)

家族崩壊と再生の感動巨編。
男女の双子を取り上げた、父である医師ディヴィットは、妹を看護師に渡し、妻ノラには死産だったと告げる。
なぜなら、自分の亡くなった妹と同じく、自分の娘はダウン症だったからだ。
妹の治療費のため、貧乏で自由がなかった少年時代が、無意識に、ディヴィットにそんな行動をとらせたのだ。

看護師キャロラインは、娘を連れていくように指示された施設の酷さと、医師への恋心から、その赤ん坊フィービを自分で育てるため、すべてのキャリアを捨てた。
そしてフィービを通じて、夫となるアル、友人ドロシー、ダウン症の子供を持つ母親たちと関わりを持ち始める。

ディヴィットは、妹のために我慢を強いられた自分の子供時代を取り返すかのように、息子ポールに接するが、死産した娘への悲嘆に暮れるノラとの関係には溝が入り、自分の趣味の世界へと没頭し、成長したポールとも理解し合うことができない。

一方、ノラは亡くなった娘への思いを、ディヴィットと共有できず、行き場のない感情は、家事、酒、ポール、仕事、不倫へと、時代によって変わっていく。

夫婦愛、家族愛、友情がさまざまな形で、25年に渡って描写される。
原因を分かっていて不幸になったディヴィットよりも、原因をつかみ切れずに不幸になったノラのほうが救いがない。
ここまで女は変わってしまうのか、というほど、ノラは変わっていく。
世間知らずな若妻→悲嘆に暮れる狂気ぎりぎりの若い母親→息子にすべてを注ぎ込む母→あきらめきった妻・母→仕事に打ち込み不倫にはまる女経営者。
若い頃は理解し合えなかった自由奔放な妹ブリーと、どんどん似通ってきて、最終的にはブリーのほうが常識的で道徳的であるように思える。

100%満足な家族再生とまでは至らないものの、各自が心の平穏を取り戻す終盤になり、ようやく、他人と理解しあうこと、関わり合うことが大切であることにそれぞれが気づく。

生まれた赤ん坊が結婚する年齢になるまでを、3人の視点から追いかけるストーリー展開は、まさに昼のメロドラマの構成。
次に出てくるとき、彼らの状況がどんな風に変わっているのかが気になるという、「引き」の強い作品だった。

だまされないために、わたしは経済を学んだ(村上龍)

村上龍の「だまされないために、わたしは経済を学んだ」を読書中。

JMM(ジャパンメールメディア)というメールマガジンのエッセイを集めたもの。
JMM・・・
なんだか、私の中では、卑猥でもなく、淫靡でもなく、猥褻でもなく、(とにかく、アヤシイという表現は他にないのか)、そう、眉つば、そんなイメージの響きがある。
よくよく考えて、MMRと脳内でセットになってしまったようだ。
MMR週刊少年マガジンに昔掲載されていたマンガで、フィクションなのかノンフィクションなのか(フィクションだ!)よくわからない、とにかく、大袈裟なアオリが特徴のマンガだった。

ところで、村上龍の本を読んだことがないような気がする。
村上春樹もだ。こちらはトライするたびに挫折する)

kyokoを眺めたような記憶はあるけど、高岡早紀のイメージしかないので、小説ではなくフォトブックかも。
きっちり読んだといえるのは新聞に連載されていたインザミソスープだけだ。

で、今読み始めて、この人の文章の美しさに驚いた。
メールマガジンなので、小説に比べると推敲の時間を取っているわけはなく、編集者による校閲というのもないと思う。
だから、素の文章、ライブだと思う。(書籍化したときに、手を加えてなければ)
メルマガというメディアの特徴を踏まえて、一文が短く、無駄がなくて、誤解がなくて、漢字とカタカナとひらがなのバランスも良い。
大量の書籍を読み、大量の日本語を書く、有能な人が、ジャンル違いの経済について(口語体で)書くと、こうなるのか。

書籍としての日本語としては、微妙な点があるが(今開いているページから引用すると、デフレスパイラル的な、という表現とか)、ブログやメールの文章で、ほぼライブでここまで書く文章力、分析力があるから本が売れるのかなぁと思った。

結局、眉つばという単語と、淫靡という単語が、脳内辞書でリンクしているような私の脳みそからは、明晰なブログ記事は生まれにくいと思いました。

中庭の出来事(恩田陸)

もう、お手上げ。
劇中劇の劇中劇、回想録の回想録、という入れ子構造。
実際の物語なのか脚本なのか、劇中での劇なのか・・・
最後の部分で何となくわかるけど、この実験的な構造の前に、くらくらするだけで終わってしまった。
もともと演劇的な要素というのが苦手なので・・・
 
著名な脚本家が、自分の主催するティーパーティで毒殺される。
容疑者として、脚本家が行っていた舞台オーディションに残っていた3人の女優の名が挙がるが・・・
 

中庭の出来事

中庭の出来事

風の王国1(五木寛之)

大好きなラノベ・ファンタジーに同タイトルの作品があるけど、こちらは、作家よりエッセイストとして認識していた五木寛之の小説。

1巻しか読んでないのでジャンルが不明。これから主人公が大きな流れにのみこまれる直前までしか収録されていない。
薄い上に、横書きなのは、何か意図があるのだろうか。慣れるまでが、すごく読みにくかった。

主人公、速水卓はトラベルライター。歩くことに興味を持っている。
20代の頃は世界各地を放浪していたが、30代の今は東京で旅行雑誌などに記事を出している。
ある仕事で奈良の二上山に登ることになったが、そこで、卓は「へんろう会」という山を猛スピードで駆け抜ける謎の集団と出会い、その中でも、特に素晴らしい駆け足を見せる女性に興味を持つ。

というところで、1巻は終わり。
卓は東京在住だが、奈良県の地名ばかり出てくるので、奈良県民の私には馴染み深い。
ちょっと二上山に登りたくなりました。

海外を放浪してきたフリーライターというキャラクターが、私の想像通り。
たぶん、作家とフリーライターは接点が多いはずなので、本の中に出てくるフリーライターが皆よく似た特徴を持っているとすれば、実在のフリーライターにその特徴があるのだろうと思う。
奈良が禍々しく変貌するのか、それとも、主人公が謎に満ちた集団に巻き込まれて、彼の周囲だけが禍々しくなるのか、とにかく、禍々しくなってほしいという期待がある。

風の王国 第一巻 翔ぶ女

風の王国 第一巻 翔ぶ女


風の王国2(五木寛之
奈良の二上山で見かけた、見事な脚力で歩く女に会うため、雑誌の編集長とともに、ある経済界のパーティに出かけた速水卓。
なんとか、その女、葛城哀には出会えたが、どうやら、自分のまわりは、哀が属する「へんろう会」にかかわる人物が多いらしい。
哀に誘われ、卓は20時間で120kmを2人で歩き通す「ノリ」を行うことになる。

五木寛之という作家は、こういう作家だったのかー、という感想。
どこをどう読んでも、栗本薫の「魔界水滸伝」を思い出してしまう。
葛城だからかなぁ。けして、オカルトやホラーに属する作品ではないけど(どうやらスピリチュアル系のようだ)、なんか、無茶な話でも、ノリと勢いと断言で押し切ってしまう、有無を言わせぬ勢いがあります。


風の王国 第二巻 幻の族

風の王国 第二巻 幻の族

江戸の検屍官 闇女(川田弥一郎)

検屍が得意な同心・彦太郎が主役のサスペンス。
まさに、現代の検視官ですからね。
相棒はもちろん監察医、ではなくて、検屍と女が大好きな町医者・玄海

結構、科学的な検視をするのだが、ひたすら、「下」のあたりの観察に終始している気もする。
死体の似顔絵を描きにくる、絵師のお月(若い娘)も、実は本職はエログロ・イラストレーターだったりする。
もちろん死体ばかり出てくる。
でもホラーではなくて、あくまでもサスペンス。
彦太郎が丹念に物証を追いかけていくうちに、一人の女の存在が気になりだす。
女は連続殺人事件の犯人なのか、そうでないのか?
最後まで、分からない犯人を彦太郎とともに追いかけるのは面白かった。

女に言い寄られても、身重の愛妻に操を立て続ける彦太郎の動向を追いかけていると、妻のお園は実在の人物なのか、神格化された創造上の女なのか、区別がつかなくなる。
ぎりぎりまで行っておいて、超寸前で思いとどまり、未練たらたらの彦太郎の様子は、浮気症の男よりも一層、情けないのだが・・・


江戸の検屍官 闇女 (講談社文庫)

江戸の検屍官 闇女 (講談社文庫)