フライ、ダディ、フライ

フライ,ダディ,フライ

フライ,ダディ,フライ

夏休みの青春ファンタジーなんだけど、読み終えて気持ちいい。
冷静に考えると、高2の夏休みを全部潰して、おっさん1人に賭けてるわけだ。
いいのか、それで?
40日間、毎日毎日、炎天下の下で、おっさんと一対一で向き合う。
そんなんでいいのか、スンシンくん。
 
サラリーマン鈴木一の最大の自慢の娘が、高校生のボクシングチャンピオン石原に殴られて入院する。
石原本人、石原の両親の権力、石原の高校の教頭の迫力に、負けてしまった鈴木の姿に、娘は落胆して父親を拒絶する。
翌日、鈴木は石原の復讐のために高校に向かうが、近所の別の高校に入って返り討ちにあい、返り討ちした高校生の勧めに従うことになる。
夏休みをかけて肉体改造し、素手で石原を倒し、娘をこの手に取り返すのだ。
 
最初の復讐心が、いつの間にか、ケンカの師匠・朴舜臣(パク・スンシン)に認められたい一心にすり替わっているような気もするが、まぁ、いいや。
舜臣が、鈴木に向かって言う名言(ときには、ブルース・リーのセリフの引用)が素晴らしい。
これを恥ずかしげもなく、他人に言い放てるのは、まだまだ世慣れていない高校生だから?
物語の後半になってくると、舜臣の陰の部分も見えてきて、鈴木の気持ちはようやく「師匠!!ついていきますから見捨てないで」だけでなく、高校生に対して恥ずかしくない父親・大人に、となる。
とはいっても、私が一番印象に残っているのは、石原との対決の場面で、一瞬、気がひるんだときに、「愛してるぞ、山下」という一言で復活するところ。
強くなるためには、やはり、守るものがないとね。
 
作中には一言も書かれていなかったが、朴舜臣、南方、板良敷、萱野、山下は、鹿羽高校のゾンビーズの面々。
中年の鈴木さえもドキドキさせる美男子・佐藤(アギー)も登場する、ゾンビーズシリーズ(レヴォリューションNo.3SPEED (The zombies series))がある。
こういう難しいことを考えずに、疾走感でつきぬける作品は、読後にやる気が出る。

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で、こちらは映画。
脚本は、金城一紀
映画の話が先にあって、脚本と本が書かれたようだ。
だから、「原作とは雰囲気が違う」ということはない。
多少、エピソードが違っていたり、アギーが出てこなかったりくらいのもんだ。
映画が断然によかったのは、舜臣が美しかったということ。
岡田准一は当時、すでに20歳を過ぎているが、制服を着ているわけではないので、高校二年生の役でも気にならない。
そもそも、ゾンビーズの面々(17歳)が、全員25歳前後の俳優で演じられているのだ。
舜臣は、常に肩が見えるデザインの服を着ているので、鍛え上げられた肩から上腕の筋肉が見えるのだが、それが素敵。
顔もきれいだから、長い前髪の間から、斜に構える感じの流し目のシーンなんて、ため息が出た。
本にはなかったシーンで良かったのが、舜臣の顔と体の切り傷のエピソード。
そのエピソードを聞くと、「高2の夏休みを全部潰して、おっさん1人に賭けてる」理由がわかる。
映画のほうが減点なのは、鈴木一が、堤真一ということで、情けなさが足りないめ、なことかなぁ。
いくら高校生のジャージを着てても(サイズが合ってないが、あれは山下のサイズだ)、無精ひげを生やしてても、おっさん臭が漂ってこないですからね。
バスに乗っているレギュラーメンバーのサラリーマンが濃いだけに(おっさん臭が濃密)、鈴木が情けないサラリーマンには見えなかった。
あと、鈴木が口ずさむ「灰とダイアモンド」は、ぼそぼそと聞き取りにくいので、本のほうが良い。
いっそのこと、映画には、口ずさむシーンは不要だったのではないかと思う。
詩を口ずさんでいると知っていても、般若心経だとしても区別つかないな、と思ったほどだ。
とはいえ、本にあった疾走感は、映画にも存在した。
空の青さや、熱い地面近傍の空気の揺らぎといった、画像だからこその夏の風景は、映画だからこそ。
映画好きにはどうかはしらないが、見た後ですっきりするので、

DVDレンタル代と見た時間は全然惜しくない作品だった。